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質屋の社長 秋山実です Vol.9
2016年01月19日
期間限定1年の修業、はじまる
1年間の修業でもかまわないと承諾してくださったのは、千葉県のとある質屋。修行先のM社長から、質屋の業務を教わる日々が始まりました。
前回のコラムで、質屋の修業は掃除や台帳から仕事を少しずつ覚えていくとお話ししましたね。野球に例えるなら、新入部員はボール拾いから始めるようなものです。ところがM社長は、私をいきなり売り場に出しました。野球の初心者が、わけもわからないうちにバッターボックスに立たされたようなものです。見たこともないブランドの時計や、でっかい宝石に囲まれ、とまどいました(笑)。実は、質屋という商売には強い関心をもっていたものの、ブランドのことはほとんど知らなかったものですから。それでも、毎日が驚きと発見の連続で、とても楽しかったことを覚えています。
1ヶ月が過ぎ、お店での接客にもようやく慣れてきた頃のこと。私は、社長にある直談判をしました。
販売経験で学んだこと
M社長は、駅を挟んで販売店と質屋の2店舗を経営していました。私は、修行をスタートして1ヶ月の間、販売店でしか接客をさせてもらえませんでした。次第に、「質屋の本質は査定に違いない。すぐ近くに質屋があるのだから、あちらの店に行かせてもらえないだろうか」という気持ちが大きくなり、ついにM社長に直談判したのです。「査定業務を教えてください」。とにかく、1年で修業を終えなければ!というあせりでいっぱいでした。
身の程知らずの私の申し出に対するM社長の答えは、次のようなものでした。「"売る"という行動によって、商品知識をどんどん得られるんだ。商品名も商品の特徴も知らないうちに、お客様の品物の査定などできないよ」。
お客様の品物を自分の目で見て、手で触り、特徴を知り、商品知識として蓄える。この積み重ねが質屋にとっていかに大切かをM社長は教えてくださいました。納得した私は、再び販売店での修行を続けることになったのです。(続く)
※付録
1月7日、お世話になったM社長がご逝去されました。48歳という若さでこの世を去るというのはあまりに早すぎます。私にとってはかけがえのない方であり最高の師匠でした。この現実が受け入れがたく、今でも電話をすればすぐに話が出来そうな気がします。私がこの仕事を続けていられるのもM社長のお陰です。たくさんの思い出と大きな感謝の気持ちで一杯です。これからの私の成長も見ていただきたいと思っていただけに残念でなりません。謹んでM社長のご冥福をお祈りいたします。合掌。(加筆:秋山)
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